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川手 鷹彦

2016年6月 成都

成都では二つのプログラムがあった。

その1:子どもの教育に携わる人々のための藝術ワークショップ(5日間)
その2:治療教育者養成準備のための演劇体験講座(10日間)


子どもの教育に携わる人々のための藝術ワークショップ(5日間)

夥しい数の小鳥とたぶんその背後にいると思われる、夥しい鳥の精霊たちの住む美しい森…
幼稚園と小学校があり、森の中に散在する教室、家屋…

それらの建造物の中心となるホールに各地から教師が集った。

人間の五感覚と藝術行為を関連付けながら子どもの教育の本質に迫らんと試みた。
経験豊富な教師たちもいるので互いにわらべうたの指導をし合い、またそれらについて批判・検証した。

墨絵の授業は予期せぬほど印象深かったようで、これからの教育活動の参考となったようである。


日々の学校生活からの具体的な質問が数多く提出され、講師と受講生あるいは受講生同士で議論が熱することもしばしばであった。
ある教師が
「結局私たちが今すべきことはなんでしょう?端的に教えてください!」
というので、私は期待通り「端的!」に答えた。
「ここにいる受講者が自らの職場を辞めて、この森で感覚を磨き直し、共に新しい学校を作ることである」
素晴らしいアイデアではあるが、実現するはずがないので、全員がよく笑ったのである。


治療教育者養成準備のための演劇体験講座(10日間)

チベットに伝わる仏教説話を基にした
『王子と四匹の動物』
を稽古・上演した。
稽古場は受講者の多くが宿泊するホテル内の会場で行われた。
中国では当たり前のことなのだが、参加者のほぼ全員がたくさん台詞のある重要な役柄をやりたいと思い、その役をほとんど奪い合うように決定していくのである。
自分が望む役を貰えない人は、どれ程重要な社会的地位を持ち、金銭的に裕福であろうとも号泣するか、ヘソを曲げてすねる。純粋な魂なのである。
しかしそれらがみな落ち着いて納得してしまえば、異常なほどのエネルギーで舞台創作をしていくのである。
演出家の言うことはほとんど聞かない。
演出家の意図とは全く違う方向へと芝居は進んでいくのだ!

二つの小学校で公演した。そのうちの一校では、私が避けるように言ったにも関わらず公開ゲネプロ(最終稽古)に多くの幼稚園児を呼び入れた。
私の恐れていたことがそのまま眼前に繰り広げられることと相成った!
即ち…
幼児たちは舞台上のたくさんの動物を見るや、当然のことながら自分たちもその動物たちになりたくて仕方なくなり、歓声と共に舞台の上に上がって共に演じ、芝居を盛り上げ、また決定的に邪魔をするのであった。
音楽家の楽器は奪い去られ、最もシリアスな場面は子どもたちの歓声・嬌声・踏み鳴らす足の音で掻き消された。
上演が終わると出演者も子どもらもへとへとであった。
子どもらを連れてきた両親たちはそれを楽しげに見ている。
誰一人子どもを押しとどめることもなく、欲望の趣くままにさせたのである。
それはおぞましくも!素晴らしく!創造的な!!舞台であった!!!



川手鷹彦


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