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川手 鷹彦

一般の社会常識では、障害を持っている子どもたちはいわゆる健常児よりも劣った存在であり、故に多くの治療教育がその劣等性を如何に克服するか、如何にして障害児を健常児の水準に近づけるかということを目標にしています。
しかし、一度でも「障害児」と呼ばれる子どもたちと日々を過ごしたことのある者ならば、必ずや違った考えを持つでしょう。
自閉症児の類い稀な感覚世界、ダウン症の子どもの持つ人間本来の共感と愛着、ADHD注意欠陥多動性障害という名に括られる彼らの驚くべき集中力、LD学習障害の子どもらが特定領域の能力を代償にして得た深い藝術性と超感覚性、等々、彼らの身近に居る者は、それらの事実や能力に畏怖と敬愛の念を抱かざるを得ません。
その認識の上に立って初めて、私たちは彼らの苦労、即ち現実社会との不適合について、彼らに寄り添って励まし、一方で社会の側の変革を求めながら、現実と折り合いをつける手伝いをすることができるのです。


川手伝言板

FBページ:川手鷹彦伝言板

治療教育に関するメッセージ・コラム・講演記録などを記しています。


川手鷹彦による治療教育的エッセイ

一般財団法人《花の家》ホームページにて順次公開


治療教育と藝術行為について

治療教育者として、自閉症の子どもと共に居るとき、彼らが繰り出す予期せぬ才能の数々、卓越した リズム感 *1 自閉症児の音楽的才能は事例としてよく取り上げられるが、殆どは楽器の演奏能力である。しかし、その根幹には音とリズムに対する類稀なる感覚、言わば耳の良さ(*3を参照)、がある。才能ある、また熟達した音楽家に可能なように、彼らの中には同時に二つの異なるリズムを事も無げに操る(音楽で云うポリリズムまたは類似したもの)子どもがいる。 造形力 *2 自閉症児の持つ美術的才能にも目を見張るものがある。絵画・造形美術いずれにも秀でるが、健常児の多くが表現する対象を決めてから始めるのに対し、彼らは色や素材そのものを楽しもうとする。それゆえ、表現の自由さに限界がない。もし流木や珊瑚が充分あれば、それらで部屋を埋め尽くし、一瞬にして異空間に変えてしまう。 諸感覚の鋭さ *3 遠くに鳴く鳥の欲求が聞き分けられる、電磁波を具体的に感ずる、猫のように塀の上を歩く、満月や嵐の夜は眠らない、等々…。感覚の鋭敏さは、それが健常者の社会の尺度や評価に見合うものは「驚くべき才能」と云われ、その鋭敏さゆえの反応や行動が社会常識を逸脱したものであれば問題視されて「療育」等の名の下に矯正される。 に私たちは瞠目しますが、それは彼らが幼な子の心をいつまでも失っていないからです。
ところがそれらの才と技は、一部「サヴァン」という名称で括られ見世物的に世間の耳目を集められる例を除けば、学校でも社会でも、殆んど評価されることがありません。

一方で、評価されることだけが物事の本質であるとは限らないことも、私たちは知っています。

知的評価を偏重したために、競争意識が肥大発達し、その陰で人間性が失われ、教育も藝術も崩壊・荒廃の危機に晒されています。
知的文化をまったく否定するのではありませんが、その発達によって犠牲になった感覚世界を取り戻し、両者のバランスのよくとれた生活が目指されるべきです。そのために多くの人々が重要視する知性よりも、失われがちな感覚を守ろうというのです。
母子の間に行なわれる「歌」のような「やり取り」から、「わらべうた」そして「昔語り」「物語り」がされるようになり、そこへ「ごっこ遊び」の「真似び(真似てなりかわること)」の要素が加わって、演劇藝術へと展開してゆく。

音楽や絵画藝術そして建築も取り入れた「舞台藝術」こそ、人の到ることのできる文化の粋のひとつであることを大人が少しでも理解・実感することで、子どもたちの教育環境は随分改善されるでしょう。
自閉症児の中には、たくさんの人々の集まる場に居ることが苦しく、他者或いは見知らぬ人との関わりを持つことを敢えて欲しない子どもも居ます。ですから通常、そういう子どもが演劇のような集団行為に関わることは難しいとされています。
しかし、演劇藝術とは何でしょう。教室内に於けるテラピーの大部分は言葉とその会話で成り立っており、子どもと大人との間にはある種の暗黙の役割分担が生じます。
治療教育者は子どもに対し、日常的なおしゃべりをするのではありません。言葉が選ばれ磨かれ造形されていなければ、子どもの心の奥の宮へと響くことはないのです。
その意味で、テラピーの場もひとつの演劇空間であり、そこで治療教育者(施術者)は、子どもが自らの力で叡智を生み出す産婆の役をするのです。それは丁度、舞台の上で役者からそれまで隠されていた技藝を引き出すための演出家の役割と同じです。
そのとき最も大切なことは、それがうたであれ物語であれ、藝術が表現されることこそが最終目的であって、それ以外の目的の手段ではないということです。即ち、所謂「障害」など「健康であること」よりも劣っているとされた部分を改善するため、「病い」を「癒す」ために藝術が存在するのではありません。
例えば、同じわらべうたを数年間続けることにより、その子の内に忍耐力や協調性が養われますが、そのわらべうたは忍耐力と協調性養成のために訓練されるのではありません。
藝術空間の最終目標は、あくまでも作品が美しく表現されることであり、「美しい表現」は、けだし《美しいリズム》《巧みな造形力》《繊細鋭敏な感覚》が尊重、保障されてこそ可能です。

治療教育とは先ず藝術教育であり、その副産物として諸々の社会性が得られるのです。

2012年9月吉日
川手鷹彦



川手鷹彦によるセッション

品川 個別セッション

¥20,000 / 1 枠( 1 時間)   *多忙のため受付休止中


自閉症を始めとする「心の保護を求める子どもたち」のため、全ての枠を取り払った治療教育・芸術教育が急務です。

自閉症・アスペルガー症候群・レット症候群・LD ・ ADHD…発達障害といわれる子どもたち。
ダウン症をはじめとする、染色体異常とカテゴライズされる子どもたち。
不登校・引きこもりの子どもたち。
非行と呼ばれる不注意に育てられた子どもたち。
総称して「心の保護を求める子どもたち」
彼らを早期に発見し、的確に診断を下し、親の不安や躊躇を払拭して、その子どもの状態と時期に相応しい治療教育を励ますことのできる医師が必要になります。

対象:
  • 心の保護を求める子どもたち
  • 上記父母
  • それらの治療・教育に関わる関係者(医師、教育者、保育士、看護士など)

  • 沖縄・名護市屋我地診療所 治療教育外来での個人指導

    月1回(不定期)  ※詳細は診療所までお問合せください
      名護市屋我地診療所 公式ホームページ

    名護市屋我地診療所
      〒905-1632 沖縄県名護市饒平名460-1
      電話  0980-52-8887  FAX  0980-52-8911

    診療時間
      月、火、水、金  9:00〜12:30(受付時間 8:30〜12:00)
               14:00〜18:00(受付時間 13:50〜17:30)
      木、土  9:00〜12:30(受付時間 8:30〜12:00)


    【治療教育外来案内】
    毎週月曜日に治療教育外来を行っています。完全予約制です。
    親しみやすい芸術要素を取り入れた、実績ある個別セラピーです。状況・需要に応じてグループセラピーを行うことがあります。


    【対象】
    1. 発達に特性があるために、特別な保護・療育を必要とする子ども
    2. 上項にもかかわらず、周囲の無理解により心に傷を持ってしまった子ども
    3. 既に次のように診断されたことがある、またはそう推察される子ども:自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、ADHD注意欠陥多動性障害、LD学習障害、ダウン症など染色体異常、不登校、引きこもり


    一般財団法人《花の家》

    川手鷹彦が代表理事・筆頭講師を務める一般財団法人《花の家》は、「心の保護を求める子どもたち」のための木目細やかな藝術空間を無償で提供するを理念に社会に開かれた場所として運営されています。
    ※詳しくは公式ページでご案内しております。



    Career

    日欧中で求められる治療教育

    東京大学・沖縄キリスト教短期大学での非常勤講師の他、早稲田大学・立命館大学等での藝術的授業が高く評価される。

    1990年 ドイツ・リューベック市郊外のブリーストルフ村の治療教育施設「ハウス・アーリルド」に勤務し、自閉症・ダウン症・てんかん・非行等、多くの子どもたち・若者たちの心の保護に携わる。施設での治療教育活動の報告書簡は、『ブリーストルフ便り』として1991年岩波書店「へるめす」に連載される。
    1993年 帰国。本邦にて藝術・言語テラピー研究所「靑い丘」開設。
    1996年 母と子の学びの場「まるめろの木」開所。健常児・障害児を含めた藝術治療教育の実践開始。
    1997年 藝術・治療者養成のためのゼミナール「靑い丘・夜間學舎」開講。
    2000年 官公民の枠を取り払った「教育の有機的治療」プロジェクト提唱。その一環として法務省保護局よりの委嘱を受け、心に傷を持つ子どもたち・道を探す若者たちの演劇プロジェクト「オイディプス王」を開始、翌2001年は東京都八王子で、翌々2002年には東京都中野区で舞台公演を成功させ、大きな社会的反響を呼ぶ。中野区での演劇プロジェクトを含めた地域活動が、地道な更生保護活動に功績のあった個人や団体に贈られる「瀬戸山賞」を受賞。
    2001年 沖縄で、深い藝術性と認識力を養う「陽文舎」並びに「陽文舎公開講座」開講。
    また同年秋には当地で、治療教育研究所「うーじぬふぁー」を開設。
    2002年 東京で「こころの保護を求める子どもたち」の専門クラス「蝶の羽」開始。
    沖縄での理想的な施設建設へ向けて、社会福祉法人「うーじぬふぁー」設立準備会を発足。この社会福祉法人化は、沖縄県庁の協力もあり実現が期待されたが、自閉症・アスペルガー症候群の子どもたちの宿泊施設建設に対する建設予定地周辺住民の同意が得られず計画を断念。
    2003年 東京での活動拠点を表参道から品川新學舎へ移す。前出演劇プロジェクトの行政主導から市民活動への移行奨励に応え、思春期を迎える子どもたちと一流芸術家による演劇塾《銀河鉄道》を開講、以降 10 年間で 14 作品(下記諸戯曲より)に取組み、舞台公演を催し続けている。
    2004年 前出の演劇プロジェクトが、市民による実行委員会により岐阜県東濃地域で再開され、約七十名の子どもたちが参加。
    翌2005年1月には当代一流の能楽師・芸術家・照明家等の協力を得て、多治見市での公演が実現する。
    2006年 北海道伊達市で演劇塾〈虎の縞〉が開設され、以降七年間で七作品に取り組み、舞台公演を実施。
    同年より、青森県十和田市の社会福祉法人「北心会」に招かれ、以下の諸施設での治療教育に従事している。
    社会福祉法人北心会小さな森保育園にて職員(保育士)研修としての、昔話及び演劇講習 社会福祉法人北心会フレンドリーホームモクモックにて利用者向けのわらべうた・物語ワークショップ 社会福祉法人北心会発達支援センターコスモスにて障がい児のためのわらべうた・昔話 社会福祉法人北心会クリエイティブサポートぷちぶろうにて利用者向けのわらべうた・昔話・演劇
    2011年  北海道伊達市に、子どもらのための日溜りの家「花の家」を置き、芸術活動に加えて小麦の古代種スペルト小麦によるパンの啓蒙と子どもたちとの共同製造のため、試作を開始。
    同年3月から4月にかけて、東南アジアの諸国を巡りながら、東日本大震災と異国の地の伝説や風景が融合した物語を連作、そのひとつ『龍の寺』は多くの子どもたちに語られている。
    各地で、母・教育者・語り手たちとの昔話共同研鑚活動「とらおおかみ」を展開。
    2012年5月 北海道、東京、沖縄の三研究所を統合し、一般財団法人《花の家》を設立、代表理事に就任。子どもたちに施す治療教育、わらべうた/物語活動、演劇・芸術教育を無償制にする。財団設立時評議員には、以下の諸賢が就任。
      一般財団法人《花の家》設立時評議員
        イルカ 国際自然保護連合初代親善大使、シンガーソングライター
        大須賀るえ子 ウタリ(アイヌ)宮本イカシマトク酋長孫娘、ウタリ語教室講師
        島本昌和 精神科医、常盤病院院長
        高塚直裕 精神科医、ポロナイクリニック院長、
             北海道岩見沢児童相談所嘱託医、詩と藝術の館ポエティカ主宰
        西平直 京都大学大学院教育学研究科教授
        松山鮎子 大学教員
    2014年春より中国各地に招聘される。
    演劇藝術・物語・わらべうた・治療教育等、様々な分野で、戯曲 / 物語執筆・演出・教授等を行う。
    爆発的に誕生する所謂「発達障害」の子どもたちに関する諸課題、即ち診断・医師へのアドバイス・父母家族 / 教師との相談・講演等の依頼が急増する。
    2015年2月 大分にて治療教育者養成コース(2年間)を開講
    2016年 中国で、本格的に、藝術教育者・治療教育者・教師育成プログラムを各地で展開する。
    2016年9月 治療教育者として集大成となる三つのプロジェクトを同時発足
    2016年10月 第一回研究報告会を開催 (10月15日北海道、10月16日京都、10月20日東京)


    医療関係等

    2000年6月6日〜2004年2月19日 県立千葉高校夜間部に毎月通い、保健室にて養護教諭と協力し、生徒・教師へのカウンセリングを行う。
    2002年6月18日 習志野文化ホールにて、千葉県養護教諭会主催講演
    2002年〜 苫小牧植苗病院、長沼町ポロナイクリニックにて、講演会、対談及び、医師たちとの共同作業による治療教育
    2009年11月8日 大阪ワシントンホテルにて、医師・看護師等医療関係者のための講演会、自閉症を始めとする子どもらのために垣根を取払った大人たちの連携による治療教育が急務であることを説く。
    2010年7月23日 淀川キリスト教病院の小児病棟を訪れ、難病の子どもたちの藝術教育/テラピーの可能性を探る。
    2010年11月14日 前年度講演会好評による再招聘に応え、大阪梅田にてピアニスト福田直樹との講演&コンサート『バッハと自閉症』を開催。
    2013年10月20日 沖縄県名護市にて、治療教育についての講演会を行う。
    2013年12月2日 沖縄県名護市屋我地島に小野寺医院開業にあたり、治療教育外来が新設され川手が担当、本邦初の試みとなる。
    2014年6月10日・7月27日・8月31日・11月30日 名護市屋我地診療所にて治療教育についての講演会を行う。
    2014年11月 名護市屋我地診療所主催の演劇プログラムにて講師を務める。
    2015年10〜11月 昨年度に引き続き開催された名護市屋我地診療所主催の演劇プログラムにて再び講師を務める。
    2016年4月23日・5月21日 名護市屋我地診療所にて治療教育についての講演会を行う。


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