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川手 鷹彦

2016年2月13〜28日 北京春之谷

治療教育者になるための実技学習として、言語藝術の中でも特に表現の難しい「抒情詩」を主題にした。

課程:
二十六名の受講生に、二週間で李白・杜甫・王維其々の詩人の作品から、一篇ずつを選んで学ぶように求めた。
受講生の中には、その内の一詩人の別の作品も学びたい希望者、三詩人以外の作品も学びたいと作品を用意してきた人、私から敢えて三詩人以前の、例えば『詩経』(*1)から選んで課題として薦めた人、などの例外も存在した。単純に計算すれば、二週間で八十篇ほどの漢詩が、春之谷の教室に響いたことになる。
その他自作の詩を披露する人がおり、二週目には、抒情詩を取り入れた演劇場面の台本創作まで進む人さえ居た!
これだけの詩作品、それも名品の数々に取組んでもらうためには、講師にも相当の準備が要求される。私が中国語の出来ない分、通訳の静謡氏には多大なご協力をいただいた。
授業の終わるのが夕の五時頃、その後ミーティング或いは個人セッションを経て、夕食の終わるの直後20:00から、静謡氏が受講生の選びまた創った作品の翻訳などに勤しむ。深夜24:00頃、仮眠を取った講師が交代し、翌朝の授業まで準備作業は続いた。
因みに何れの詩も、初回の稽古では敢えて翻訳を見ずに音と文章の動きや色合い、特に各音節の響き具合に耳を傾けた。中国語の意味が取れないハンディを逆手に取って、朗唱者の表現の弱点を的確に指摘することができたようだ。
ところで受講生には子育て中の母が多く、止むを得ず連れてきて、教室の上の階の図書室で待たせる者も居たが、敏感な子は、李白等の亡霊を見た。各週末に友人たちを招待して、学んだ作品から上演したが、私が飛び入りで詩人の亡霊を演ずると、大人の観客は笑っていたが、子どもらの中には真剣に見入る子も居た。
コロスによる合唱で、五言絶句の各行の表現に色をイメージして朗唱した。

『望廬山瀑布』 李白
日照香爐生紫煙
遙看瀑布掛前川
飛流直下三千尺
疑是銀河落九天

廬山(ろざん)瀑布(ばくふ)を臨む』 李白
日は熱く香炉(こうろ)の峰を照らせば 紫煙(しえん)の如き霧立ち昇る
遥かに見ゆる大河の先は 瀑布(ばくふ)直下に水は落ちる
尺三千の高みより 飛流下界に迸り
銀河九天(きゅうてん)より落つるかと 見紛うほどの天の仕業よ

すると小学生の男児が、こともなげに看破した
「白、青、黄金、無色!」
改めて子どもらの感覚の鋭さ・穢れなさに脱帽したことである。

2016年4月30日
川手鷹彦


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