2016年12月19〜31日 チベット、シャングリラ
賢治の『雁の童子』など、名作の背景となったチベット高原、今生で訪れることになろうとは…
シャングリラの街は栄えているが静謐な空気。
正確にはシャングリラの駅。街と呼ばずに駅という。
交通手段が馬車であった頃の名残り。
この空気は、正しく賢治童話に流れているものだ。
講義と演劇コースの二週間の滞在。
彼方にヒマラヤの峰々が見える。
白く美しく清らかである。この風景を毎日眺め、この山々に囲まれ守護されて過ごす人生…、想像がつかない。
講義では、地上に生きる動植物にヒマラヤ地方原産が多い理由、ヒト属もまた生き延び文化を守るためにチベット/ヒマラヤに身を寄せたことについて語った:
象 実は桜は大昔 どこもかしこも灼熱で 涼しさ求めこの山に
そして再び地球上 気温下がって落ち着いて 桜各地に広がった
つまりこの山北の山 遍く世界各地への
試験場且つラボラトリー 冷凍庫兼解凍所
総本部且つ司令塔 大脳皮質前頭葉
(第二稿『王子と動物』2015/12/29 香格里拉公演決定稿より)
桜と橙、南北を代表する果物のいずれもがヒマラヤ原産と聞いて驚かない人はいないだろう。
動植物だけでなく、精霊たちの物語もこの地方に護られた。
今回の演劇の基になったチベット仏教説話『四匹の動物たち/象、猿、兎、山鶉』の原像は、実は太古に遡る。
後代、スフィンクスや中国の鵺、北米大陸太平洋沿岸の先住民族によるトーテムポール等として文化・文藝となった、動物の融合表現による精霊の姿。
コロス こうしてみなが納得し とても仲良くなりました
敬う順に背に乗せる
象がお猿を背なに乗せ 猿は兎を肩担ぎ 兎の上は山鶉
実によかったこの順で 逆さだったら大惨事
鳥の上には兎乗り 兎の上に猿が乗り 猿に象さん乗るという
余程危険な状況に なっていたかも知れません
(第二稿『王子と動物』2015/12/29 香格里拉公演決定稿より)
12月24日聖夜、チベット伝統の古民家に会場を移し、炉を囲んで聖十二夜と黄道帯の話をする。
日本人がヒマラヤで中国人とチベット人向けにカルデアの占星術を話している。
私たちは確かに、星々の近くに居た。
二回の舞台公演で、面白いことが起こった。
観劇による魂の浄化/カタルシスだが、特定の場面で如実に起こることがある。特に観客に子どもらがいる場合には読み取り易い。
一夜目は、劇中物語の兎が炎に飛び込み燃え上がるところだった。
そこで二夜目も同じ場面を想定し、より浄化力の高まるよう念を入れて稽古した。
ところが、その晩訪れた子どもたちの魂は、象たちの群舞に洗い流された。
人の意図を他所に、四匹和合の精霊は、子どもらの心に忘れ得ぬ印象を刻み込んだのである。
2016年4月17日
川手鷹彦